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坐につくとすぐ固苦しい挨拶をはじめた房一に向つて、その気重い調子を払ひのけでもするやうに、老医師の正文は口早やに云つた。
「さうですつてね」
よそは住宅難だが、伊東には売家も貸家も多い。伊東は海山の幸にめぐまれて食糧事情がよかったが、東京も食糧事情がよくなったので、不便を忍んで通勤していた人たちが東京へ戻りはじめたのである。
その時、練吉はぐつと盃をつきつけた。
「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」
「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」
「ふむ、さうすると――」
と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
「おう、これか」
「御機嫌だつたね」
「やあ、今晩は」
「やつぱり徳さんが多いね」